第55話 再度、聞き取り | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第55話 再度、聞き取り

1組と2組の聞き取りが終わり、校長を含め学年会を持った。

「1組の菊野、荒川、山本には指導をしました」

と己斐は言葉少なめに報告した。



『彼らが謝罪するとかいう流れにはなったんですか?』と有田。
「いえ、そこまではなっていませんが、ちゃんと指導しました。」

『それじゃあ、まずくないですか? 謝罪をしないってことは本人らが認めてないわけでしょう?
家庭訪問するにしても、この状態では難しいですよね。もう一度指導をしたほうがいいんじゃないかな。』

「そうやって何度も指導するよりも、保護者に言う方がいいですよ。
あの子らは小学校からあれでずっとやってきたんです。」
『いや、でも、まずいと思いますよ。本人たちが納得してないわけでしょ?』

己斐は自分のことを言われるとムッとする。
「また話をしても同じですよ。」
『同じですって言われても、彼らは嫌がらせをしているわけで、その指導をまずするのが、我々教員の仕事でしょう?』

「じゃあ、先生がやってください。私はやることはしました」
『先生、それじゃあ無責任過ぎませんか? 指導をしたとしても、納得するところまでしないといけないでしょう。
私も手伝いますが、先生もやってください。』

己斐は始終不服そうだった。

校長の反応はというと、
「とにかく、指導をきちんとして、本人も納得して、保護者も納得する状態にしてもらいたい。
それが君たちの仕事だ。これ以上、クレームがないようにしてくれ」
自分で何かをする気はないようだ。



翌日。

『なんでまた呼ばれるんや』
『なんで俺たちだけなんや』

『俺らはやっておらんし、他のやつがやっとる。ひいきだろうが』
『昨日、指導されたのに、なんで今日もされないといけんのんや。クラブにいかせろや』

と、己斐と有田に対して菊野、荒川は反発した。
己斐は何もしゃべらず、有田も言葉に詰まった。

よく考えてみると、己斐は彼らが何をしたか、という証拠を集めていなかったのだ。
これでは指導できるはずもない。
加害者たちを呼んでからそれに気づくとは情けなかった。

「とにかく、君たちの名前が上がっている。藤川さんに対してもう関わらない、そうしてくれ」
と有田は行った。
『なんで、お前にそんなん決められんといけんのんや』

「藤川さんが嫌がっているからよ。じゃけ、もうやめないといけないし、トラブルになっとるわけだから、関わったらいけない」
『そんなん知るか。俺たちは俺たちで決めるし。』

「あのな、そうやって自分たちが勝手に決めて行動するから、トラブルが起きるんでしょ?
今回の件はいじめだとわしは思っとる。
それでもまだ続けるなら、いじめとして指導をするよ」
『なんで、いじめって決め付けるんや』

「いじめる方はいっつもそういうんよ」
『はあ!? そうやってまた決めつけて。ひいきばっかすんなや』

「君たちの関わり方がそうしてしまったんだから、反省せんといけんってことよ。ひいきでも何でもない」
菊野、荒川は有田を激しく睨んでいる。
『いじめじゃないし、そうやって決めつけて、ひいきするのはおかしい』
彼らの主張はずっと同じ。

黙っていた己斐が口を開いた
「彼らがそう言っているし、もうやらないと約束できるかどうかじゃないですか。
どう、あなたたちは、もうやらないと約束できるの?」
『もともとやってないし、やらない』と言った。

「わかりました。ならそうしましょう。」
『これは家に電話をかけるん? おれらは何もやっていないし、先生も今納得したでしょ?』

「じゃあ、かけません。ただし、もう二度とこういったことにならないようにしなさいよ」
菊野と荒川がニヤリと笑いあった。

*****

『先生、あれじゃあ、いけんですよ。家にも電話をしないって勝手に約束して』
有田はそう言ったが、己斐は返事をしなかった



※指導のポイント

(1)指導は証拠を揃えてから

本格的な指導に必要なのは、どういう状況で、誰がどのようにしたかの詳細な情報。
きちんと生徒に聞きこみをして固めておくべき。

面倒だからそれをせずに、加害者といきなり話をしても、肝心な部分には踏み込めない。
安易な迎合をしてはいけない。


(2)家にはやはり電話を入れる

保護者は学校の様子がわからない。
生徒は都合の悪いことほど、親には知られたくない。
面倒な電話をするのは教員も嫌だ。

しかしながら、長い付き合いを考えておくと、保護者との密な連絡は必要であり、信用問題。
電話をしたからといって、指導してもらう必要がない場合もある。
生徒がしないでくれと言うからしないと単純に決めるのは早計である。

次回 → 第56話 適正な評価