第61話 文化祭の曲決め | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第61話 文化祭の曲決め

7月に入っていた。

10月の下旬には文化祭があり、学年合唱と学級合唱の発表がある。
その学級の曲を夏休みまでに決めておかないといけない。
伴奏者が夏休みに練習をするからだ。



曲の決め方については、文化祭実行委員会から指針が出されていた。

・合唱曲であること(邦楽POPはダメ)
・楽譜があること

これらに合致すればなんでもいいということであり、合唱曲とは一体何だという、議論もありながら、適当な形で流れていった。
この辺で土井がうるさいはずであるが、土井は「副担任である」故に何も口に挟まなかった。


合唱曲は今の中学生からすると「ダサい」。
だから、邦楽POPの耳障りのよい曲が歌いたかった。

合唱に熱心な平川からすれば、合唱曲を歌わないときれいな合唱はつくりあげられないことはわかっていたし、邦楽POPを歌うと合唱にはならないし、深みも出ない。
生徒はカラオケ感覚でいるから、邦楽POPがいいと主張するのである。

そんな事情もあり、クラスによっては「合唱曲なんてダサい、嫌だ」となるクラスがある。
そのこともあり、音楽の授業で担当の隅田から話があったり、合唱曲を聞かせるなど支援があった。

当然、1年生は大いにもめることになる。
というのも、彼らは中学校の合唱のイメージもないからだ。



選曲のための学活。
隅田が各クラス用に曲を8曲程度に絞っていた。
これをクラスで聴いて絞っていくのだ。

佐々木がCDをかける

「うわーださっ」
「うけるー」
「はい、もうわかった。次へ行こう」

と勝手に口を挟み、曲を聞く雰囲気でもない。

(曲が決まれば何でもいい。どうでもいい)

佐々木は心の底からそう思った。
クラスに居るのが嫌なのだ。

*******

全部聴き終わり(といってもほんの一部しか聞いてない)、候補曲を絞ろうとしたところで、向井が発言した。

『こんなダサいの歌いたくないわ。誰やこんなの選んだ奴は』
「これは隅田先生が選んでくれたんで。いい曲もあったじゃないか」

『はっ!? どこがいい曲なんや。意味わからんし。なんで、俺らが歌う曲を、勝手に決められんといけんのんや』
いつもの調子でキレ始める。
このパターンが毎週繰り返されるようになっている。

「といってもなあ、全クラス、合唱曲を歌うって決まっとるんじゃけ、仕方ないだろ」
『そんなん知るか! 勝手に言っとけや。俺らで勝手に選ぶけえのー』

「とりあえず、この中から選ぼうや」
『じゃけ、黙っとけや。』
と筆箱を投げつけ、席を立ち、机を蹴り倒し、
『いちいち、うっさいんじゃ、お前は。指図するなや!』

教室を出て行った。
当然、出ていきながら物にあたっていく。

それを見た、男子生徒たちが笑顔でぞろぞろと教室を出て行く
「呼んでくるわ」と。


2組から物音がして、騒ぎを聞きつけた1組の生徒たちもろう下にぞろぞろ出て、2組の生徒を追いかけていった。
さらに、その様子を見た同じ階の2年2組の荻原のクラスの生徒達もろう下に出始めていた。
そして、1年生のクラスの方に走ってきて「何があったん?」と楽しそうに聞き、そして、生徒たちを追いかけていった。

6クラスしかない中学校の3クラスの生徒が勝手にろうかに出る状況となった。

佐々木は追いかける気もなかった。
己斐も何しないからだ。

それにクラスに残って生徒の面倒を見なければいけない、という建前の元。
問題児たちが教室から出て行けば、教室は穏やかになる。
曲を決めようというと、

「どうせあいつらが、決めるんじゃない?」

と生徒が発言し、それ以上話は進まず、自由時間となった。


※ 指導のポイント

(1)担任が投げたらおしまい

担任がどうにでもなれ、という気持ちでやっているとますますクラスはだめになっていく。
それは生徒に伝わるからだ。
そうなれば、もうクラスは再浮上はできない


(2)信頼関係が試されている

学校の方針と生徒の考えが一致しないときがある。
教師は学校の方針を押し通す側になり、生徒を説得させないといけない。

そのときに問われるのが、日頃の生徒との信頼関係である。
担任の言うことにいちいち反発するようではダメである。
担任が何を言っても、「よし、わかった」と言われるようにするべきである。

これは言い換えると、どれだけクラスために動いたかとも言える。

次回 → 第62話 向井たちによる勝手な曲決め