第86話 指導する | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第86話 指導する

黒板への落書きの指導で呼ばれている向井、酒井、五木は黙りこんでいる。
島田は待った。

沈黙も時には大事だ。
生徒に考えさせ、悩まさせる。
ここで生徒は、善と悪の心の間で葛藤するのだ。

「言ったほうがいい。絶対バレてる」
「いや、黙っておいた方がいい。ごまかせる。それにこいつら見てないだろう」


酒井が言った。

『やってません』

「わかった。やってないんだね?」
『はい、そうです』

「じゃあ、あとの2人にも聞くけど。ぼくは来たばっかりだから、君たちのことはよく知らない。
だからこそ、信じるよ、君たちが言うことを。
やっていないと言うのだったら、やってないんだろう。

ぼくね、いっつも思うのは、大事なのは責任を取ることだよ。
ぼくが説教をすることなんて重要じゃない。

反省して、責任を取るだけ。
他人の鉛筆をへし折ったら弁償して返す。
当たり前だろ?

だからさ、正直に罪を認めたら、それ以上なかなか責められないよね。
責任を取ればいいと思っている。

でもね、覚えておいて欲しいのは、嘘をつくことは絶対に許せないってこと。
それについては徹底的に指導しようと思う。

保護者の方がね、電話で聞いたときにね、”反省をして正直に話をしてくれました”と言われるのと”嘘をついてごまかして、最後まで認めようとしませんでした”と聞いたとき、どっちがいいかな。
問題を起こして、しかも嘘までついて逃れようとして・・・情けなくなるよね。」



『先生、これって家に電話をされるんですか?』と酒井が聞いた。トーンダウンしている。
「君はやってないんだから、電話されることはないから関係ないでしょ」島田は思わせぶりに言う。

「保護者に電話をするのは君たちへのおどしじゃなくて、連絡を入れる必要がある、だから、知っておいた方がいい場合にいれるよ。
例えばさ、複数の人がやったのを見たというのに、最後の最後まで嘘を通し続けている場合とかね。

はっきり言ってさ、今回のことって、どれだけの罪なの?
些細なことなんだよ。
その些細なことでさえ、嘘ついて逃れようとして、罪を大きくするのは間違っているし、認められない。」

重い沈黙。

「話が長くなってごめんね。もう一度だけ確認させて欲しい。酒井くんはやったの? やってないの?
正直に教えて欲しい」

酒井は躊躇している。目が泳いでいる。
『・・・。やりました』
向井も五木も認めた。

『でも、俺たちだけ、こうやって怒られるはおかしくないですか?』酒井が言った。
「あとは誰がやったの?」

『いや、よく覚えてませんが、俺たちだけじゃないです』
「で?」

『だから、差別でしょ。他にもいるのに、俺たちだけって。』
「そうやって差別っていうんだったら、他の人の名前を覚えておいたらいいじゃないか。それを言えないのに、差別だ、ひいきだと言われてもね。
無責任でしょ。

ちなみにさ、ほかの人もやっていたら、君たちの罪はなくなるの?」

『いや、なくなりません。でも不公平ってことです』
「今、君たちとの話をしているから、他の人は関係ない。やるべきことは君たちが反省をして責任を取ること。
ほかの人がやったのがわかったら、その人には指導するよ。それ以上やりようがない」

これ以上の反論はなかった。
どうしてごまかそうとしたのか、なぜ朝の段階で名乗り出ないのか、今後はやってはいけないと話をした。
責任を取ると言う意味で、この後、教室の黒板を徹底的にきれいにさせた。

*******

夕方過ぎ。

島田は佐々木に言った。
「言い方は悪いけど、生徒がぼくに言ってくるってことは、先生が信頼されてないってことですよ。
崩壊したクラスで、正しいことをしようとすると叩かれる。

今回、多くの生徒が知っているはずだけど、言いたいけど、言えないんですよ。
だから、生徒には安心感を持ってもらうように、指導の実績を作っていかないといけないわけで。
約束事を守らせるから、学級はきちんと回っていく。

今回はその一歩だから、黒板は常に綺麗になるように見ておかないといけませんよ」

島田の方が年やキャリアが上であり、学年主任であることもあり、言っておいた。



※ 指導のポイント

(1)差別発言に負けるな

生徒は差別といえば、教師が怯み、追求されなくなると思っている。
わかった情報で指導する、個別に指導していることをしっかりと生徒には伝えよう。
罪がなくなるわけじゃない

次回 → 第87話 いじめの指導