第193話 甲本のケース | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第193話 甲本のケース

生徒からの聴き取りが苦手だ。
そんなことを漏らしていると島田がこう言った

「慣れですよ、慣れ」

・・・そうなのかもしれない。
というのも、自分は今まで生徒指導から逃げ続けてきていたから、そもそも積み上げた経験やスキルがなかった。



佐々木・有田組。甲本を生徒指導室へ呼ぶ。
『この前のプリンのことを、中村に聞いたら、本当はあげたくなかった。無理やり取られたって聞いたよ。それってどうなんかね?』
「はあ、、、またその話? あの話は終わったでしょ? 中村も何も言わなかったし、先生も何も言わなかったじゃん。だから、おれ、食べたんで。もう終わったことじゃ」

『プリンは確かにないかもしれないけど、あのやりとりが本当かはあの場面ではわからなかったから、調べてるんよ。甲本の意見を聞かせて欲しい』
「どうせ、おれが勝手に取ったって決めつけたいだけなんだろ?」そっぽを向いた。

『知りたいのは、そこじゃなくて、甲本がどうしてああしたか、なんだよ』
「じゃけ、勝手に決めつければいいじゃん」甲本は佐々木に反抗的だった。

「中村から聞いた話では、教室の鍵を閉めたり、中村の荷物を勝手にあさったり、隠したりもしたらしいね」と黙っていた有田が口を開いた。押し問答をしても仕方ないと判断したのだろう。
「・・・。ああ、、、あれは遊びだから。遊び」

「遊びって言っても、中村は遊びだと考えてないし、嫌だったって言ってるよ」
「ああ、そうですか、そうですか。大人ってそうやって決めつけるんだよね」

「決めつけるも何も、そうやって話を聞かないのはいいの? 大人のせいにして、逃げているんじゃない?」
「・・・大人がせこいんじゃん。母さんはなんだっておれのせいにするし」

「お母さんがどうしたん? 何かあるん?」
「母さんは、何かあればオレが悪いって決めつけるし、小遣いくれんし、欲しい物買えんし、成績悪いのはお前が馬鹿だっていうし、生きている意味が無いっていうし」
甲本の目が赤くなっていく。

「そうか、、、家では辛いことがあるんだね。なるほどなあ。。。そこに中村は関係あるんかね?」
「あいつは、、、頭がオレと同じようにアホで、宿題も出しもせんのに、いつも親に物を買ってもらって、お小遣いもたくさんもらって。。。こっちはストレスが溜まってるのに・・・」



甲本の問題行動は母親との確執にありそうだ。
「でもさ、お母さんとは関係ない中村に当たり散らしたらいけんわけじゃろ?」
目に涙をためて頷く。
母親のことを話せて、少し気が楽になったんだろう、素直な反応だった。

「中村に対して悪かったところは、謝ったほうがいいんじゃない?」
黙って頷く。

甲本は何回か大きな生徒指導があった。
その度に母親の対応には困ったものだった。

もしも、違う家庭に育っていたら、こうはならなかったのかもしれないと佐々木は思いながら聞いていた。



※ 指導のポイント

(1)生徒の話を聞くこと

生徒は論理的ではない。感情的であり、順序もバラバラ、優先順位もバラバラ。
だから、大人と話をしても通じなかったり、要領を得ない答えが多くなる。

その時に、答えを急がせたり、違う違うとだめだしをするのは早急過ぎる。
話をまず聞いて、すべてを吐き出させた後の方が生徒にも話が入りやすいし、感情が整理される。

次回 → 第194話 神田のケース