第194話 神田のケース | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第194話 神田のケース

島田・赤井組は、神田と酒井の聴き取りと指導を担当した。
島田が神田と酒井を選んだのには理由がある。
単純に佐々木が指導すればこじれると考えているからだ。

教師という職業が難しいところは、生徒全員が同じような態度ではないということ。
よい教師であっても特定の生徒に嫌われることがあり、それが原因で病休に入ることさえある。



現時点で、佐々木と神田・酒井ではうまく話ができる関係にはない。
佐々木にしてみれば、神田や酒井の言動は学級を乱す中心人物であり、天敵である。

島田の見立ては違う。
佐々木は事あるごとに「1組はいいですね」と言うが、菊野や神辺などは根底には暴力的で破壊的なものを常に持ち合わせており、危うい。
学級運営にあたっては、うまくいっているかもしれないが、彼らが爆発しないように細心の注意を払っていた。
成長促させねばいけない段階である。

神田と酒井は根本が違う。
彼らは暴力的というよりも、ただ不満がくすぶっていたり、エネルギーを持て余しているように感じる。
学力もそこそこある。

担任が変われば、問題生徒がリーダーになると言われるように、神田はリーダーとして活躍してもおかしくはない。
ただ、佐々木と合わない、佐々木がうまく使いこなせない、良い関係が作れない。


神田を呼んだ。
「何の用? おれ、なにかやった?」ご機嫌は悪くなさそうだ。どちらかといえば、びっくりしている感じ。
『中村の件なんだけど、神田は中村に暴力をふるったり、デブっていったりするの?』

「ああ、、、それか。うーん、まあ、、、そう言われるとそうかもしれん。
けど、暴力という程でもないと思うんだけどな」
『具体的には?』

「あいつとろとろしていたり、ボウーっとしたりで邪魔だから押しのけることがあるかな。
でも、殴ったりは絶対してない。これは誓える。」
『なるほど。デブとか言った?』

「うーん、どうかなーー。周りの奴らが言ったりするかもしれんけど、おれは言ってないと思う。
だってさ、あんな奴にやったらさ、すぐいじめって言われそうじゃん。
おれさ、そういう弱い者いじめみたいなのは嫌いなんよね」
『なるほどね。他に思い当たるものはないかね?』

「たぶん、ないと思う。中村なんて、おれ的にはどうでもいいしね。
どっちかというと、いつも関わってる甲本とかの方がひどいと思うよ。あいつらにも興味ないけど」
『わかった。ぼくは神田の言うことを信じるよ。
ただね、中村は神田から押されたりすることが嫌みたいなんよ。それは理解できるかね?』

「わかった。理解するし、もうやらない」
島田はちらりと赤井の方を見た。
『じゃあ、約束だね。時間取ってくれてありがとう』

「もう行っていい? ああ、、、よかった。めっちゃ怒られるかと思った。」

*********

「先生、どう思います?」と島田は赤井に聞いた。
『あれでいいんじゃないです? 神田はそういうタイプじゃないし、やっている側とやっていない側だと認識が違うもんよね』

やっている側とやられている側では、精神的には格段の差があるので、被害者の話を元に考えると、大抵の加害者はそれほど悪いことはしていない程度に映る。
それが足りないか、適切かは、直接話をして見極める必要がある。

神田の話には違和感がなかった。彼が中村に執着する感じもしないし、そういう場面を見たこともない。
彼の話を信じる、これが指導としては大事だ。
生徒には裏切られることがあるが、まずは信じてあげないといけない。

神田の話を疑う証拠もないし、彼がもうやらないと言っているならそれでいいと判断した。
ネチネチやり過ぎるのも問題があると思うので、あっさりとさせる方法をとった。

次回 → 第195話 酒井のケース