第203話 答えは | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第203話 答えは

島田からクラブ指導を勧められて、佐々木は躊躇した。
というのも、島田の言うように、神無月中ではクラブ指導は死語であった。
そんな概念なんか存在しない。

朝練もできない学校なのだ。
平日の放課後にクラブに出る顧問なんて皆無だ。
放課後になれば各自が自分の仕事に向かい、いかに早く学校から立ち去るかを考えている。



『そんなにメリットがあるんですか? そもそも、よその学校はどうなんですか?』

「先生はよその学校で常勤の経験がないから、イメージつかないと思うけど、この学校は異常ですよ。
教員も少ないから、わがままな人の意見が通って、すっごく偏っているしバランスが悪い。
本来なら通らない意見も通ってますよ」

佐々木の頭には土井の顔が浮かんだ。
土井のようなタイプはどこでも軋轢を生むだろう。
アマゾネス。

そんなイメージだ。
ああやって、正義をかざし、文句ばかり言い、完璧を求め教員の仕事を増やす人を味方する教員は少ないだろう。
大人数の学校行けば土井の主張は極端な少数派になる。
うちの学校だからこそ、大手を振って主張ができるのだ。

「他の学校では、教員によってクラブ指導はまちまちですが、ここより断然熱心ですよ。
大会引率して思いませんか?」

佐々木は大会を想像した。
うちのチームは圧倒的に弱いし、へらへらしていて感じが悪い。マナーも悪い。
よっほど強豪校の方が礼儀正しいし、接しても気持ちがいい。



『そうですよね。めっちゃくちゃ感じますよ。そもそも、うちの子らはアスリートでもなんでもないですよね。学校の体育の延長ですもんね』
「結局、こういうのがうちの文化なんですよ。うちにいる限り、それが当たり前だと思ってしまうから、よその学校に行ったら通用しなくなりますよ」

今の佐々木でさえ通用しないのに、よその学校に行ったらどうなんだろう・・・ちょっとぞっとした。

『まあ、、、でも今は余裕がないので、クラブ指導は、またにします』
と佐々木は言った。
この答えは島田が予想した通りの答えだった。


困っている教員は多いが、現状を変えたくないのだ。
学級崩壊、授業崩壊、生徒とうまくいかないなど、すべてのことには原因があり、それを取り除くためにはほとんどの場合、教員が変わらなければいけない。
しかしながら、そういう教員ほど現状を変えたがらない。

だから苦しむことになるし、生徒はどんどんたちの悪い方に成長してしまう。
一教員の保身が、自分勝手な思いが、力不足が、生徒の成長を阻んでしまう。
島田からすればそれがやるせなかったし、「ここを変えれば簡単なのにな」と思うのだった。


とともに、佐々木に対してつい喋り過ぎてしまったとも後悔した。他の教員に陰口としてこぼさなければいいが。
相手が楽になるように、力がつくようにと思って、話をするのだが、やはり無駄だった。
自滅する教員は自滅するのだ。本人が変わろうと真剣にならないかぎり。

その真剣さを信じてみたかったが、自分が意図するようには、他人は動いてはくれない。
こうやって、荻原や佐々木は職場の人間から見捨てられていったんだろうな。

しみじみと思う。

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