第209話 動く? 動かない? | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第209話 動く? 動かない?

佐々木は納得できない、そして腹だった思いを持ちながらも仕事をした。
島田に対して偉そうなことを言ってしまったので、いまさらに相談できない。
相談したいと思っていた他のことさえ、言い出しづらい。

島田は怒っているのだろう。
事務的なことしか話しかけて来ない。



翌日、やり直し掃除をサボった生徒を朝読書の時間にろう下に呼び出し、問い詰める。
『昨日はなんで逃げたんや』
「忘れていた」という返事が来る。
「今日の放課後にやります」と続けた。

佐々木はペナルティ的なことを考えてもいなかったので、それでよしとした。

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掃除は・・・というと、結局、全員揃ったもののサボる生徒がけっこうな数いた。
佐々木はそれを見て「やれよ」と声をかけることは行ったが、明らかに手を抜いている。
ほうきを扱う手には力が入っておらず、同じ所をはき続けるか、すきまだらけにはくかのどちらかだ。

明らかにサボっている。
が、掃除としてはきれいになった。
というのも、真面目な生徒が居残りさせられたくないから、人一倍がんばっていたのだ。

佐々木が見ていない時には、ピン球やテニスボールで遊び呆けている生徒もいた。
でも、結果的にはきれいになっているのだ。

佐々木がいくら注意をしても改善は見られなかった。
「今、たった今、やっただけ。あとはまじめにやっていた」とか「いや、ちゃんとやってるし。いちゃもんつけんなや」とか言った。



掃除については合格を出せる日が続いていたが、今回の指導を通して、生徒との距離がまた一つ離れてしまったのを感じていた。
真面目な生徒たちからも話しかけられなくなっていたし、教室が変な沈黙に覆われることが多くなった。
そんなときは、多くの生徒に顔に「面白くない」と書いてあるのだった。


放課後に、島田から話しかけられた。
掃除のことだった。

要するに、真面目な生徒が掃除をしているが、不真面目な生徒は遊び呆けている。
佐々木や赤井の指導に効果がなく、割りを食って困っている。不公平でたまらないと。

『だから、それは誰が言っているんですか?』
佐々木は腹が立って仕方がなかった。

「それが誰かは別にいいでしょう? 問題なのはそうやって思っている生徒がいて、その不満をどのように解消していくかが大事じゃないですか」
『いやいや、誰が不満を覚えているかがわからないと対処できないじゃないですか。』

「この問題は個別に対処する話ではないからですよ。そうやって思っているのは真面目な生徒全員だと思いますよ。」
『そうやってはぐらかさないでくださいよ。そんな生徒はいないんでしょ? そうやって言いたいだけじゃないですか?』

島田に落胆した表情が浮かんだ。
「・・・生徒が、佐々木先生には誰が言ったかは内緒にして欲しいって言われているんです。生徒は『先生に言われたら、報復される』って恐れているんですよ」
『はあ!? そんなのするわけないじゃないですか。ぼくは大人ですよ。何バカなこと言ってるんですか!!』

「生徒がそう思っているんだから仕方ないでしょ」
『いちいち、そうやって秘密にされるのが嫌なんですよ。教師同士だからいいでしょう? 誰かおしえてくださいよ。報復なんてしませんよ』

「申し訳ないけど、生徒と約束したから誰かは言えません。けど、生徒から訴えがあったのは事実です」
『ああ、そうですか。じゃあ、その生徒に伝えて下さい。佐々木先生のところに話しにいけと。』

「じゃあ、すぐに動かないんですか? ぼくがこうやって伝えても」
『だから、生徒から訴えがなければ動きません』
佐々木は苛立ちを隠さなかった。

次回 → 第210話 有田の話