第210話 有田の話 | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第210話 有田の話

島田は席を立った。
佐々木はフンと鼻を鳴らした。

有田が佐々木に「ちょっといい?」と声をかけ、ろう下に呼び出した。
有田は困り顔である。嫌なことを言われる予感がムンムンだ。
こういう予感だけはいつも当たる。



「まあ、その、わしが思うこと何だけど。さっきの島田先生とのやりとりを聞いていてね。
ぼくはすぐに動くべきだと思うよ。
島田先生は先生のクラスのことを心配して、生徒のことを心配して、話をしてくれたわけで、ああやった先生が怒るのは違うよ」

有田からこれまで諭されることがほとんどなかった分、有田の真剣な物言いは驚いた。

『でも、誰かを教えてくれないんですよ。そんなんで動けるわけないじゃないですか』


「・・・言いにくことだけど、言うよ。

先生は生徒から信用されてないんよ。だから、生徒は悩みごとがあっても先生のところにはいかんわけ。
でも、クラスでは問題が起こるけど、放置していては解決しないから、生徒も悩みながら島田先生のところに行くんよ。
絶対、自分だとわからないようにして欲しいって、勇気を振り絞って。

島田先生は、そういったことを言うと先生が傷つくと思って言わなかったんよ。それは察しないと。」

有田の口から聞かされるとショックだった。教室での様子を見ていると、そう言われても仕方ないなと思った。

「先生にとってさ、何が一番大事なんかね?
もし、生徒だったら、誰が言っているとか関係なく、どうやって指導したらいいじゃろうってまず考えるよね。
ああやって言っていたら他の先生もびっくりするよね」

胃がきゅ~っと絞めつけられた。重たい。。。
それは・・・つまり、、、



『先生、、、それは、、、まさか、、、ぼくに生徒に対する愛がないって言いたいんですか?』
「・・・・。」

有田は答えにくそうだった。この沈黙こそが、イエスの答えにも思えた。
「先生はどう思っているんかね? 他人がどう思うかなんてより、本人がどう思っているかが大事だよね。」
『もちろん、生徒に愛がありますよ』と佐々木は答えた。


実際には、生徒への愛なんてない。愛なんてないって答えたら、教師失格だと噂を立てられるだけだ。
だからと言って、有田が自分の言葉を信じてくれるかどうかは自信がなかった。
有田まで生徒のような重たい沈黙を出している。

「で、先生、これからどうするんかね?」
『島田先生には、その生徒に自分のところまで直接言いにいけと伝えてもらうことになってます』

「でも、ねえ、先生、さっき言ったこととぜんぜん違うと思うんだけど。わかってほしいことがあって、こうやって話をしているわけよ」
『いや、先生。放置しているわけではありませんよ。島田先生が動いてくれているんですか』
一度言ったことを撤回するのは面倒だし、意固地になっていた。


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「佐々木先生、ちょっといいか? 校長室に来てくれ」教頭に呼びだされた。

次回 → 第211話 怒り爆発