第213話 荻原と愚痴 | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第213話 荻原と愚痴

「もうさ、教員なんて苦しいだけよー。どこまで行っても」
荻原が言う。
佐々木の職員室での大暴走の一件があり、佐々木が落ち込んでいると見て、帰り際に荻原が晩ごはんに誘ったのだった。

年齢で言うと、荻原が少し上であるが、採用も少しだけ早かった。
早いと言っても何年も採用試験に受からなかった。30前でようやく新規採用になったのだ。

『ですよねえ』佐々木が答える。



「もうさ、ここまで来てね、じたばたしても無駄なんよ。もう後は野となれ、山となれ」
『なんか達観してますね』

「するしかないじゃん。学級もぐちゃぐちゃ、授業もぐちゃぐちゃ、周りからは文句言われて、散々だもん。でもね、新年度になれば、クラスは解散するから、あと2か月ガマンすればいいだけよ」
『たしかに、そう言われれば、生徒指導を頑張るって今、はりきってますけど、ばからしいですね。どうせあと2か月。ストレスが少ないようがいいですよね』

佐々木は考えたみた。
島田の言うように生徒指導を頑張ってみるのか、それとも、もう投げて何もせずにあとは時間が過ぎればいいとやるのか。

『でも、保護者からの電話がかかったりするんじゃないですか?』
「まあ、あるね。すいません、すいません、すいませんって切り抜ければいいよ。緊急事態になれば周りが動いてくれるしね。こっちが動くへ、下手なことするなって言うだけだし」

よく見ると、荻原は苦しそうに呼吸をしている。
この頃、職員室で見る限り、呼吸が浅く、いつも疲れていた。時折、腰を抑える姿も見せている。

『先生、大丈夫ですか。かなり疲れてません?』
「・・・うん、疲れるよね。最近、腰痛もひどくなって。
俺ってさ、周りからは仕事してないって言われるけど、ちゃんとやっているんだよ。でもさ、何でも否定されるわけ。学級があんなんだから。それって辛いよね。あんなクラス誰がうまくやれるんかって思うよ。そもそも、平川先生が楽な方を持ったんだしね。」

『そう、それですよ! 仕事をやっても全然評価されませんよね。失敗した時に限ってダメ出しをするだけで。あとは、自分たちの都合のいいように動かないと不機嫌になるし』
「そうよ。ほんまにさ、教員って自己中だよ。何が聖職だよ。やっていることは生徒と変わらんよ」

もう愚痴の言い合いだった。




帰り道、車内で佐々木は荻原との会話を思い出す。

(荻原の言うとおり、もう何もしないでいるべきか。
そういう荻原は、達観している割には、苦しそうだし、どんどん悪化している気がする)

(そもそも、荻原先生の話はひっかかるところが多いんだよな。いっつも愚痴ばっかりで、結局、次に何をやるのかがないもんな。今日もただの愚痴を言っただけで、明日から何かが変わるわけじゃない。。。むしろ、明日行くのが怖いくらい)

(とはいえ、島田先生の言うとおりに2週間頑張った見たけど、毎日、毎日、大変で疲れるし、そう簡単には効果が出ないし。やれと言われることが多いしな)


新規採用研修で同期の教師と話をすることはあったが、うまくいっている人とうまくいかない人にくっきりと分かれていた。
その度に貧乏くじ引いたなと思った。
そもそも、こんな中学校に来たからいけないんだと後悔し続けている。


佐々木は日々日々、悩んでばかりいた。毎日、胃がきゅ~っと締め付けられるし、胃が重たく、胃が痛いこともしばしばだ。
手先から急に血の気が引くような、冷える感覚もある。
疲れも抜けにくくなった。

ずっと、家でも、寝ていても学校のことがよぎってしまう。
その分、酒を飲む量と時間が増えた。今日もきっと酒を飲んだままこたつで寝てしまうだろう。
答えが出ないまま

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