第241話 石神が読書をしない理由 | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第241話 石神が読書をしない理由

2日目の夕方。
『ですから、読書の本を持ってこさせてください。これは学校の決まりですから』
と佐々木は電話口でしゃべっていた。

「そんな本買うお金がないっていっとんよ。小学校は担任が用意してくれとったんで。用意したらいいじゃん。図書室にたくさん本があるでしょ」
と電話の相手は当然のように言う。
石神の母であった。



2日目でいきなり朝読書の本を忘れたのは石神だけであり、学校の新しいルールのもと、保護者に電話をかけたのだった。
石神の母は、小学校からの評判通り、子どものことに関しては非協力的であり、こちらに対して要求ばかりするような親だった。
(だから、あんなガキに育つんじゃ)佐々木は心の中で毒を吐きつづける。

『わかりました。当面はなんとかします』と諦めたように言った。
このことを学年に報告すると、有田は
「やれやれ・・・親がだめだから子どもがだめになるんよね。今はまだ小さいからかわいいものの、大きくなって手に負えないようになったらどうするつもりかね」と溜息混じりで言った。


翌日。

当然のことながら、石神は朝読書の本を持ってきていない。
仕方なく、後ろの学級文庫から男子が興味を持ちそうなものを選び、石神に渡す。

石神は本の中を開くとパラパラと見た後は、本を放り出し、落ち着きなく貧乏ゆすりを始め、落ち着かなくなった。
その様子を有田が見て、石神に声をかけると、
「おい、これ、漢字ばっかでわからんし」と石神が言った。



「先生、あれはやばいね。」と職員室で有田が佐々木に話し始めた。
「この年で漢字が読めんってよっぽどじゃ。たぶん、ADHD(注意欠如・多動性)の毛があるよ。検査をすれば、たぶんIQも低いじゃろうて。通常学級におるレベルじゃないかもしれん」
有田は特別支援学級の教員なので、こういうことには詳しい。

『え、じゃあ、特支に入級ですか?』と佐々木は嬉しそうに言う。
「いやいや、そんな単純なことじゃない。親や本人は間違いなく希望せんじゃろうし」

『ああ、そうなんですか』と露骨にがっかりする佐々木。
「彼自身が発達障害を持っていて、親が育児してこんかったから、余計に力が育ってないよね。我慢とかできないでしょ。本当に幼稚園児レベルだろうね。だから、小学校でもうまくいかないし、中学校でもうまくいくわけないよね」

『なんかがっかりですね。で、対処はあるんですか?』
「ない。親や本人が変わろうという気がなければ無理じゃろう」
それを聞いてますますがっかりする佐々木であった。


「授業内容もさっぱりと理解できないかもしれないし、それがストレスになって爆発するかもしれない。小学校ではそれで廊下の徘徊が始まったわけじゃけえね。
とりあえず、ひらがなばっかりの本をうちの学級から持って上がるよ。それなら読めるじゃろう」

佐々木は深く、深く、ため息をついた。
次回 → 第242話 校内巡りにて