第237話 できるか、できないかじゃなくて | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第237話 できるか、できないかじゃなくて

2日目。3年生は学活の時間で、島田は指示を出していた。
「背の順に並びをつくってみて。男子は前で、女子は後ろで。先頭は廊下側ね」

島田の指示の下、1組の生徒たちは並びを作り始めた。
「おれの方が背が高いだろう?」などと、背を比べ始める。

学級の始まった時に、みんなが動かしてみて、誰がどういう動きをするのかを観察する目的もあった。



島田は3年生との人間関係はなく、ほとんど知らない。
だからこそ、集団の中で誰がどんな役割をするのか観察する必要がある。
リーダーとして振る舞う、言われたとおりに動く、何も考えない、積極的に協力しようとするなど、色んな動きが見える。

1組には去年、会長に立候補した高田、副会長に立候補した木本がいた。
彼らは執行部になりたくて荻原と相談したのが、その後の大きなトラブルの原因となった。
高田の様子を見る限り、どう見ても会長、いや執行部でさえも無理だろう。

木本は言葉遣いは悪いが、声が大きく、声が出せるタイプであった。
女子は見る限り、問題なさそうだった。去年は荻原は「生理的に嫌い」と徹底的に嫌われていたようだが。


「よし、できたね。じゃあ、一旦席について」生徒も素直に席につく。
「上手く並びが作れたね。いいじゃん。で、次は、この背の順の並びを10秒でやってみよう」

『いや、無理っしょ』などと声が上がる。
「何で?」
『いやあーー、そんな短時間にはできないでしょ』と答えるのが木本。
「できるよ。頭で無理って思うから無理な気がするだけよ。10秒で並ぶことを前提に「どうやったらできるかな?」って思ったらできるもんよ。頭を使ったらいいよ。君たちの力が知りたいね。
仕方ないから作戦タイムを上げよう。どうやったらできるか、考えてみて。3分だけね。」

男子も女子もさっきの場所に集まり、どうやったらいいかを話し始めた。
島田が驚いたのは、男子も女子も一定のまとまりがあることだった。
目的を持って集まっている。

これができるかどうかが集団としての大きな差になる。
平川先生が毎年どちらかのクラスを鍛えてきたおかげかとしみじみと思った。




「よし、やってみるか。じゃあ、先頭は・・・」
『え、先頭って前と同じ場所じゃないん?』

「場所変えないと意味ないっしょ。あ、女子は左側ね。男子は右側で。先頭は、ここにしよう。じゃあ、始め!」
わああっと一斉に生徒が席を立ち、並びを作っていく。
10秒もたたないうちにあっという間に並びが完成した。

「すっごいじゃん!!いいねえーーー」と島田はほめた。

「コツを教えてほしいな」と席に戻した後に聞くと
『背の低いやつは前、高いやつは後ろに最初からいけばいいじゃん。簡単じゃん』

「なるほど。よく気づいたね。頭をつかうとさ、いい方法が浮かんでくるよね。君たちが見つけた方法は、早く並べる方法なんだよ。
すごい発見だよね。明日の全体集会ではうまくいくかな。楽しみにしてるよ。

そういえば、君たちが1,2年生のときに、3年生のことをどんな風にイメージしてた?」

島田が話題を切り替えたこともあり、生徒の反応はまちまちだった。

「これはね、ぼくの考えだけどさ。3年生のことを聞かれたらさ、「すごい」とか「かっこいい」とか、最初に言われるようにならないといけないんだと思うんだよ。
さっきやった整列はビシっと早くできたじゃん。これって1,2年生が見たら、かっこいいって思うよね
3年生がお手本になると、自然とそういう風に思われるわけで、君たちにはそんな風になってほしい」

生徒は静かに聞いていた。

「君たちの動きを見ていたら、そうできるって確信が持てたよ。できる、できないじゃなくて、どうやったらできるかを考えてみた欲しい。そうやっていったら、後輩たちから自然と「カッコいい」って言われるよ」

カッコいいという言葉は男子の心をくすぐるようだ。高田をはじめ、数人の男子がニヤッとした。

「ので、ちょっと後輩の目を気にして動いてごらん。特に体育祭とか、文化祭とかの行事ではね。でさ、合唱コンクールでは金賞を取りたいね」
『それって嫌味?』と高田が言った。
去年の合唱コンでは平川のクラスは金賞、荻原のクラスは銅賞と明暗がくっきりと分かれていた。
現在は両方のクラスが混ざり合っているので、合唱コンについての思いは様々なだろう。

『自慢じゃない?』と木本が言う。
というのも、島田の1年1組は去年金賞をとったからだ。

「そう、自慢だよ」と島田が言うと『でたーー』とわっと沸いた。

「まあ、冗談だよ。でもさ、今年は金賞をこのクラスで取って自慢したいね」
生徒の視線が一気に集まった。このことを、集中が高まったという教師もいる。

『できると思う?』
「さっきも言ったけど、できる、できないじゃなくて、金賞を取るために何をするかを考えたらいいよ。
そのためには、クラス内でさ、妬んだり、羨んだり、恨みに思ったりする心をなくしてさ、協力して楽しくやっていくことだと思うよ。
合唱コンだけじゃないけど、今年ある行事はもうスタートしているんだって。
まずは、学級をどう楽しくしていくかを考えていくこと」

生徒たちはいい表情をして聞いていた。いい形でスタートできそうだった
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