第244話 黒板の落書きと秦の受け取り | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第244話 黒板の落書きと秦の受け取り

翌日の朝、秦が学級に上がると、黒板はひどく落書きされており、床には折れたチョークが無数に散らばっていた。
それを見た瞬間に秦は怒鳴り声を上げた。
「なんや、これは!! 誰がやったんか、言え!!」

クラスは静まり返り、誰も何も言わなかった。



「もう1回言うけど、やったのは誰や!! 誰も見てないんか!!」

無言である。

「誰も何も言わんってことは全員が共犯ってことか! おい、なんとか言えよ。」

誰も何も言わない。この剣幕では何も言えないのが普通だろう。

「おい、黒井、お前、何をニヤニヤ笑っとんや!! お前がやったんか!!」と秦がキッと黒井を睨む。

『別にーー。ただ、黒板に書いてあることあたってるし。秦うざいって。』黒井の言葉に複数の男子が吹き出す。
黒板には落書き(うんこの絵やドラえもんの絵など)の他に、「秦うざい」「秦死ね」「2組おもんない」「担任変えろ」などとたくさん書きなぐってあった。

「お前はそうやって人をバカにして笑っとるんか。最低なヤツじゃ。お前が書いたんか?」
『そうやって言う自分はどうなん! 自己中のくせして。』と黒井はキレながら言い返す。
昨日の一件で、秦に明確な敵意を抱いている。

「それはお前だろうが。私と一緒にするなや。問題起こしている奴に言われたくないわ」と秦が言い返すが、これでは子どもの喧嘩と同じである。
『ああ、うぜええ』と黒井は言い、そっぽを向いた。


「これを見てもなんとも思わないのか?」「やったやつを見たのに、何も言わないってことはおかしい」「こんなことを平気でするのはおかしい」などと、その後も秦の雄叫びは続いたが、犯人は見つかることはなかった。
そして、朝読書の時間は過ぎ去り、朝のSHRが始まったので、メニューをこなして終わった。
秦は黒板を消さず、床に散乱したチョークもそのままにして、職員室へ降りていった。



「まじ、腹が立つ! さっき教室に上がったら落書きがしてあったし!」と秦がプリプリ怒りながら川島に愚痴っていた。
「絶対、黒井じゃし。あいつしかおらんし。絶対ゆるさん!」
と怒りは収まりそうになかった。

*********

1時間目は社会の授業で、土井は2,3年生を受け持っており、1年生の社会は非常勤講師の先生だった。
何も知らずに教室に上がり、驚いた。
黒板は落書きがされてあり、担任への悪口が書き殴られてあったし、床にはチョークが散乱し、とても平然と授業ができる状況ではなかった。

近くの生徒に聞くと、SHR後ではなく、朝読書の前からだという。
仕方がないので、落書きを消し、散乱したチョークゴミを掃除し、生徒には緩くではあるが話をした。

「土井先生、こんなことがあったんですよ」その講師は授業後に職員室に降りるやいなや、同じ社会科である土井に報告した。
担任がすでに知っているのに放置してあるわけで、深入りはしたくなかった。
でも、知ったことは正規の教員の誰かに言っておかないといけない。

土井は1年の学年主任の赤井に報告し、赤井のため息はまた増えた。



**********

『先生、落書きがされてあったらしいですね。』と赤井が秦に聞くと
「あーありましたよー。むっちゃ腹がたちましたよ。だから、しっかりと生徒指導しておきましたから」

『で、落書きはそのままにしていたとか』
「そうですよー。だって、生徒がやったんだから、生徒が消すのが当たりまでしょ」
赤井はがっくり来た。

『それは大人の世界では当たり前ですけど、学校ではそのままはだめです』
「ああーーーまた、担任のせいって言いたいんでしょ。どうせ私が悪いんでしょ」
秦がうんざりそうに言う。

『先生ね、そうやって受け取るのはいけませんよ。じゃあ、誰が消したと思いますか。
1時間目の社会の非常勤の先生ですよ。授業のために来ているのに、教室の掃除や生徒への指導でずいぶん時間が潰れたようですよ』
「そんなこと言われても、私の責任じゃないし。やったやつでしょ、悪いのは」


『やった生徒は悪いけど、先生には担任として、教室をきれいにしておいて、授業に来てくれる先生が快適に授業ができるようにする義務があるんですよ』
「じゃあ、ああやって生徒が汚す度に、担任が掃除しないといけないわけ?」

『そうです。それか、やった人を見つけて掃除させるかですよ。教室にトラブルはつきものですから、それが指導の機会なんですよ。指導を積み重ねて生徒を育てていくんですよ』
「はい、わかりました。私が悪うございました。反省してますよ。」と全く反省も見せずに言った。

そして、よそを見て「ああー、いちいちうざっ。副担任は何もせんでいいから、楽だよな。文句ばっか言っていたらいいから」と、赤井に聞こえるように言った。
赤井には、当然聞こえており、自分に言っているとわかっていたが、どうせ意味がないと思って、聞き流すことにした。

次回 → 第245話 情報源