第245話 情報源 | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第245話 情報源

『あのう、先生』と秦に話しかけてきたのは、担任している猿田(男子)だった。
メガネをかけて、挙動不審であるので、おっさん臭いと周囲から馬鹿にされていた。

「ん? 何!?」
秦は朝の教室での出来事、午前中の赤井との一件で不機嫌だった。
それはもちろん、給食時間にも影響し、生徒は粛々と給食を食べた。
現在は、昼休憩。


『今朝の落書きの件ですけど・・・』とゆったりしゃべる。様子は落ち着きがなく、相手の目を見てなかなか話ができない。
「で?」不機嫌な秦は先を急がせる。

『絶対、ぼくが言ったってことは、内緒にしてくれますか?』
「うん、するする。それで、何?」

『いやあ、、落書きをしたのは、黒井と近場です。2人が朝書いてました。』
「なんで、朝言わなかったん?」

『先生は、小学校時代のあいつらを知らないからですよー。もうめちゃくちゃするんですよー。だから、みんな関わりたくないんです』
「まあ、そりゃ、知らんわ。小学校時代のことは。で、それはほかに誰が見てた?」

『クラスのほとんどが知ってると思いますよー。かなり遅い時間だったですもん』
「ふーん、そうか。わかった。ありがとう」
秦は不敵に笑った。



「おい! 黒井、近場、ちょっと残っとけ!!」帰りのSHRが終わるなり、秦はそう叫んだ。
教室の空気が一瞬だけ固まった。
『はあ、またか、あいつ、まじうぜえ』と近場が荒っぽく言う。大人しくしていたが、黒井が反抗的な態度を取って問題なさそうなのを見て、我を出してきていた。


秦は2人を生徒指導室に入れるなり、言った。
「今朝の落書きは、お前らだろ! もうわかっとるんで!」
黒井と近場が一瞬顔を見合わせ、黒井が言う。

『やってないし。何決めつけとん。頭おかしいんじゃない?』こちらも怒りモード。
「あのな、まだとぼけるんか? こっちはわかっとるって言うとるだろ? 嘘つくんか?」

『やってないもんはやってないんじゃけ。勝手に決めんなや。お前、アホなんじゃない?』
「人のこと、アホとか言うな。やったんなら正直言え。今なら許してやる。」

『どうせ、そんなこといっても、許す気ないくせに~』近場が口を挟む。
『やってもないもんはやってない。』黒井は秦を睨みながら答える。

「お前らが書いているのを見た人間もおるんで。正直に言えや。嘘に、さらに嘘を重ねるんか?」
『そんなこと誰が言ったんや』


「言えるか。でも、お前らがやったのは間違いなく見てる」
『誰が見たとも言えんのに、そうやって決めつけるの、おかしくない? 証拠がないのと同じじゃん。決めつけんなや』

「証拠ならある。クラスの生徒の多くも見ているはずよ」
『そうやってでっちあげんなや。どうせ、勝手に決めつけとるだけだろ?』
『お前、偉そうなんじゃ。お前に誰も何も言ってないのに、そうやって言っとるだけだろ?』と近場が挑発する。

「はあ!?」さすがに、秦も我慢の限界が来た。
「猿田がお前らが書いているのを見てるで!!」





『あいつか、、、ぼこぼこにしてやるわ』と近場が怒る。
「猿田は関係ないだろうが。お前らが黒板の落書きしたかだけだろ。まだしらばっくれるんか? ああ??」

『やってないし。猿田が嘘ついとんじゃないん? 何で、俺らが嘘つきと決めつけるんや』
「そうやって罪を認めないのはどうなん? そうやって生きていくん? いい加減なことして、先生に生意気なこと言って。ろくな人生送れんで!」

さすがの黒井も我慢の限界に達した。
「うっさいんじゃ!! 黙っとれや、このブサイクが。死ねや。お前みたいなのがおるけ、学校がおもろないじゃ! お前こそ、ろくな人生送ってねえだろうが。死ねや!」
黒井はそばにあった机を思いっきり飛ばし、部屋を出て行った。当然、近場も同じように出ていき、こちらはツバまで吐いていった。

『おい、待てや!!』と叫ぶ秦であったが、指導は完全に失敗だった。
 → 245話の指導ケース~生徒からの情報は匿名で指導に徹する
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