第246話 猿田の様子 | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第246話 猿田の様子

翌日。朝読書の時間。
秦は教室を見回すと、ずっと伏せている生徒がいる。
猿田だった。

「猿田、読書せえや」と不機嫌そうに言った。
注意した瞬間、クラスの雰囲気が一気に気まずくなったが、秦がこうした空気感を感じることができない人間だった。



秦が不機嫌なのは、昨日の指導の一件があるからである。
黒井と近場が、黒板のらくがきとチョークを散乱させた犯人であるのにも関わらず認めなかったことにあった。
そのことにムカついて仕方がなかった。

もちろん、「自分の能力不足だ」なんて感じる秦ではない。
彼女からすれば「自分はできる人間」であり、「悪いのは全て生徒」だから。
であるので、黒井と近場が悪の権化であり、ただのろくでなしであり、嘘つきでありと可能な限り憎しみを込めて悪態を心の中でついていた。


注意をしても猿田が動かないので、カツカツと近づいていって叩き起こそうとしたが、ヒックヒックと泣いていたのだった。
さすがの秦も泣いている人間を無理やり起こして読書を強要するほど鬼ではない。
生徒たちが醸しだした気まずさの正体は、猿田の涙だった。



「猿田、どうしたんや」と朝のSHR後に秦は話しかけた。
猿田は秦の方は見ずに『いや、、、何でもありません』と答えた。

その態度に、秦は違和感を覚え
「そんなことはないでしょ。何かあったから泣いているんでしょ?」
『先生に言っても解決しませんから。いや、言ったらもっとひどいことになりますから』

猿田は逃げるように立ち去っていく。
「そうやってきめんなや。」と秦は声をかけた。内心では(あーあ、話しかけるんじゃなかった)と思っていた。


*************

猿田は日に日に元気がなくなり、授業中もやる気なく、うつむくことが多くなった。
秦は、そんな彼の様子を担任としてなんとなく知りつつも放置していた。
彼女が考えていたことは、「私がせっかく声をかけてやったのに」という恨みの気持ちだった。


1週間くらい経過したとき、猿田の母親からかかってきた電話で事件が発覚した。

※ 指導のポイント


(1)空気を感じる力が必要

誰かが泣いていて知らずに声をかけた時など、生徒は「空気読めよ!」と気まずい違和感を出す。
クラスに何かがあるときは、言葉よりも先に空気に現れる。
担任はその空気を読み取り、何かがあったと理解しなくてはいけない。

そして、理解した後は原因を究明して、必要であれば指導を行う。
もちろんであるが、今回の場合は、前日の指導で、黒井や近場の前で猿田の名前を出してしまったことを気にしておくべきであるし、そのことを猿田の涙と結びつけたい。
口を滑らしたのは仕方ないとして、きちんとしたフォローが必要である。

次回 → 第247話 かかってきた電話と秦の対応