第247話 かかってきた電話と秦の対応 | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第247話 かかってきた電話と秦の対応

時間は前後してしまうが、その電話は学校が始まって2週目の金曜日の夕方にかかってきた。
猿田母から秦あてだった。

「はい。・・・ああ、そうなんですか・・・・。いや、何も聞いてないですね。・・・え、・・・でも、何かあればいつでもいってこいって、毎日ようにみんなにいっているんですよ。・・・はあ、、、なるほど。・・・では、本人から聞いてみます」
などと歯切れの悪そう形で受け答えをしていた。

(生徒指導の問題だな)このやり取りが聞こえている教員にはピンと来るものがあった。



電話のやり取りと秦の不満そうな表情を見て、赤井は声をかけた。
『先生、どうかしたんですか?』
秦もそれを待っていたかのようにしゃべり出した。

「あのですねー。猿田母からだったんですけど、この頃、家で元気が無いらしく、、、ってしらんしって思いながら聞いていたんですけど。
プリントを親に見せないから、お母さんが勝手にかばんを開けたそうで、何気なく筆箱を見たら、買ってあげたシャーペンとかがもろもろなかったらしいんですよ。

それで本人に聞いたら失くしたの一点張りで、お母さんが心配して電話かけてきたんですよ。
あと、なんか、あざがあるとか、制服の汚れ方がおかしいとか。
もう、いちいち、かけてくるなっちゅうに。家でちゃんと話をせいっていうのに。こっちは早く帰りたいのに!」

(この人は、保護者の心配事に興味も共感もないんだね・・・)赤井は思いながらも、気になることがあった。
『猿田って、同じようなことが小学校でありましたよね。そのときは、例の生徒たちが嫌がらせをしていましたよね』
猿田は黒井達に目をつけられ、嫌がらせを受けたことがあったが、本人は誰にも訴えなかったのだ。これらの情報は各個人の情報としてみんなで共有していることだった。

「ああ、ああ、そうですよね、そうですよね」と秦は慌てて言い、(見てないな・・・)と赤井は見抜き
「そのことがあるから、お母さんも気になって電話をかけてきたんだと思うんですよね。」と秦は自分の発言を変えた。

『実際に元気がなかったよね。何かあったかもしれないね』
「そう言われればそうかも、しれないけど、まあ、月曜日に聞けばわかるんじゃない?」


ここで佐々木が会話に加わる。
『この前、猿田が朝泣いていたのは、黒井達が何かしたからなんですよね? 関係あるんじゃないですか?』
「はっ!? 何それ、知らんし!! てか、猿田が泣いていたのは、黒井か!!」

『佐々木先生、それを知ったのはいつです?』
『うーん、火曜日とかですかね。なんか生徒がそんなことを言っていたと思いますよ』

「いや、それ言ってもらわんと困るし! 何を黙っとったん。それがわかったら指導したのに!」と秦は佐々木に怒りを向けた。
『ああ、、、すんません。そんなつもりはなかったんですよ。その泣いているのは秦先生も知っていると思ったし』



学級で生徒が泣いているのに指導をしなかった秦と、問題生徒とマークしている黒井達が暗躍していることを知ったのに学年に報告しない佐々木。
どちらも危機意識がなく、赤井はどっぷりとため息が出た。
そこに、有田が職員室に戻ってきて赤井は報告をした。

もちろんながら、猿田が黒井達に目をつけられたのは、秦が口を滑らせたからとは言っていない。

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「このケースはすぐに動かなきゃ、まずいんじゃない? いじめの可能性もあるよ。」と有田は言った。そこに秦は
「えーーー。黒井が猿田を泣かしたのと、猿田の持ち物がなくなっているのは関係あるかどうかは、はっきりしてないじゃん」

「でもね、もし、関係があったら大きな事ですよ。動き自体も遅いって言われても仕方ないし、学級でも元気がなかったわけでしょ?」
「入学したばかりだから、そんなもんかと思ってました」

「まあ、とにかくね、こういうケースはすぐに動くべきよ。」
それを聞いて、秦は大きくため息を付いた。
「ああ・・・まじか・・・今日はせっかくの飲みだったのに、、、こんなことで・・・」大きな独り言だった。

『先生が担任なんだから』と赤井は言葉少なめに秦の言動をたしなめた。

※ 指導のポイント


(1)即動くこと

とにかく指導は即動く。これに尽きる。後に回すほど、問題は大きくなり、解決のための時間と労力は増えていく。
このケースでは、猿田が泣いていたときにその理由を究明しなかったことが問題を大きくしている。
放課後に残して本人から聞くか、周りの生徒から聞くなどするべきだった。

また、佐々木が黒井たちが猿田を泣かしたことを報告しなかったのも問題だ。
学級崩壊の主犯である彼らがどういう動きをしていたかは、教員団で随時、共有すべき話題。
話題にしたことで「ああ、それはこういうこと」のように説明があれば、手を離れることになる。

こうした意識の怠慢が、結果的に場当たり的な対応と、問題が大きくなってからの指導につながっていく
次回 → 第248話 家庭訪問と本人の話