第248話 家庭訪問と本人の話 | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第248話 家庭訪問と本人の話

『私がついていきます』と言ったのは有田だった。
秦と赤井は全然うまくいってなかった。当然ながら、原因は秦のわがままにあった。
有田が運転する道中、秦はしきりに自分がいかに男性からモテるか、という話をしていた。

今日の飲みも同期の男に誘われたとか。
有田はきついことを言わないので、秦からは嫌われていないようだった。



話は家の玄関で行った。
『本人から話が聞けますかね?』と有田が切りだすと、猿田母は、本人を呼んできた。
ここは担任の出番だろうと待っていた有田だが、秦は話す気がないらしく、有田が聞くことになった。

『何かあったんかね?』と優しく聞くと
「いや、、、何もないです。。。」思い込みか、妙に暗い返事だ。

『その声を聞いていると、何かがあったようにしか思えないんだけど。先週、黒井達とちょっとあったらしいね。それが関係しているのかな』
黙り込んでいた猿田だったが、突然「うっ、うっ」としゃくりあげながら泣き始めた。

『何かあったんかね。先生たちが力になるから話してごらん』猿田が落ち着いてきた頃合いに切り出した。
「あいつらが・・・チクったって・・・言ってきて・・・」

子ども特有のわかりにくい話だったが。要するに、猿田が黒井達の悪事を秦に報告し、黙っておいてくれといったのに、秦が黒井達に「猿田から聞いた」と口を滑らした。そのことがきっかけで、黒井達からちょっかいをかけられるようになった。筆記用具は彼らに取られたり、隠されたり、身体のあざも殴られたからできたそうだ。

(あちゃ・・・口を滑らしたらいけんじゃんか・・・)有田は苦々しく思った。当然ながら、猿田母は
『先生、何で言ったんですか。うちの子がしゃべったって』と怒りが秦に向かった。

「いや、こういうことになるとは思わなかったんですよ。それなら早く言ってくれれば指導したのに」とまるで他人事のようだ。
この発言にさすがに猿田も怒ったのか、怒り口調で、
「先生に言ったら、また同じことになるって思ったんですよ!」と言った。

(最悪だ・・・)有田にはそうとしか思えなかった。秦の発言のことは一切聞いておらず、もしも聞いていたらこちらの出方も違ったわけで。秦の言い方もまずいから、本人と保護者が怒り始めている。



『こんなこと大変失礼ですけど、秦先生には反省も何もないんですか。ずっと他人事のように聞こえます』猿田母は怒りはどんどん増えていっている。暗に秦からの謝罪はないのかと言っているようなものだ。

「ですから、そのことはたしかにいけなかったかもしれませんが、本人がそういうことがあったって言うべきと思ったんですよ。私は何度も聞いたんですから。あとから、言われても困りますよ」と猿田母の怒りに煽られている。
『そんな言い方っておかしくないですか!』と怒りがピークに達しそうなところで、


『申し訳ないです。こちらのミスです。すいませんでした。』と有田が割って入る。
『この事については、学校でよく話をしますから。ここで言い争っても問題は解決できませんから、どのようなことがあったのかを教えてもらえませんか?』
いつでも有田の言い方は優しく柔らかだ。
怒りピークの猿田母もさすがに有田まで怒りは向けられないようだった。


********

「なんでいちいち偉そうにしとるんですかね! 誰だってミスするってーの。自分の子どものことだろうが。私を責めんなや。マジむかつくし。こっちは飲み会をキャンセルしてから、行ってやったのに。」
帰りの車内で秦はプンプンだった。
有田のおかげで場はとりあえず、収まったものの反省はなかった。それどころか、猿田本人から話を聞く場面では、ずっと不機嫌なままだったのだ。

(ここまでひどいとは・・・。これは佐々木先生の比じゃないぞ)有田は心底思い知り、これからの1年を考えるとぞっとした。

※ 指導のポイント


何がまずかったのでしょうか。・・・まあ、わかりますね。

1)秦が口を滑らしてしまったことを、学年団で共有しなかったこと
2)秦が家庭訪問で言い訳をしたこと



1)について。

正直な話、たしかに自分のミスは・・・言いづらい。だけど、そうしたミスが発端になったり、事件解決のヒントになったりすることはザラ。
ミスも含めて学年団で共有すべき。
秦が言ったように「人間はミスするもの」だからこそ、他人のミスでいちいち責めてはいけない。

教員はチームだから。ミスを責めることよりも、どうやって対応するべきかにフォーカスするべき。
報告がしやすい雰囲気、文化を作っていかないといけない。
ちなみに、赤井、有田、佐々木のメンバーであれば、十分に報告しやすいと思うのだが、どうだろうか?



2)について

何のために家庭訪問をするのでしょうか?

打算的と言われるかもしれないが、「問題解決のために動いていることをアピール」とか、「面と向かって話を聞いて、共感するなど感情面でのフォローをする」といった効果がある。
そのために行うわけで、言い訳をするために行くのではない。


そもそも、家庭訪問をしなければいけないような事態を招いたら、平身低頭でなければいけない。
絶対にこじらせてはいけない。
であるので、秦は当然の事ながら、「自分のミスです。申し訳ないです」と何度も頭を下げるべきだった。

保護者とは長期的に関係を築いていかないといけないから。
次回 → 第249話 対応協議と