第270話 ノック | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第270話 ノック

トントン。

その時、生徒指導室にノックの音が響いた。
そこから顔を出したのは、島田だった。

初任者の出張から帰ってきたようだ。



「どうも、ごぶさたしています。おげんきでしたか?」と島田が山本母に声をかけた。
山本母も愛想よく返事をしている。
(そういえば、去年、山本を担任していたんだっけ)

「山本くんの給食の件で、こられたとか。大変だったんですね」
『そうなんですよ。うちの子がもう怒ってまして、大変なんですよ』

(ん?なんだ、この好意的な反応は!?)荻原は、山本母の先程までの口調と全然違うことに驚いた。

「担任の荻原先生もよくやってくれようとしているんですよ。今回もその指導の一環だと思いますよ。」
『でも、うちの子が、担任のやり方がおかしいって! すごくいってるんですよ。だから、こうやってきているんです』

「だったら、ぼくから本人に話をしておきましょうか? どうも本人もナフキンを出してなかったところがよくなかったようですし。行き違いもあったと思いますよ」
『先生から話をしてもらえるんだったら、ぜひお願いします』




山本母は上機嫌で帰っていった。
荻原はしばし呆然とし、我に返った。
『先生が話すと何でこんなにうまくいくん!!?? まじで、びっくりした!』
「いやー、去年、担任していたので」

『いやいや、それだけではないでしょ。さっきまで不機嫌だったのが、一気に上機嫌になりましたよ!』

「まあ、山本母も、山本をどう取り扱っていいか、困っているんですよ。今回、学校に来たのも、山本が家で暴れたんでしょう。それで手がつけられなくて、学校に来たんですよ。」
『え~~、親なのに子どもに頭が上がらないんですか?』

「そういう親も多いですよ。案外。
去年も携帯電話の件で、同じようなことがあったって聞いてますけど、その時も同じですよ。親が困って、山本の機嫌を直そうと学校で無茶したんでしょ。だから、山本は「困ったら、ババアに学校に文句言わせればいい」って言ってるみたいですよ

まあ、そんなこんなで、山本が家で暴れないように、今日あった出来事はその日のうちに解決していけばいいんですよ。
そうすれば、家で暴れないし、お母さんもこっちの味方をしてくれます

去年はそういう形で指導していたので、家での彼の情緒が安定し、お母さんも大喜び。おまけに宿題も出すようになったし、行儀もよくなったって。」

島田の言葉を聞いて、荻原はギクリとした。
去年までしっかりやってくれていたのに、自分が台無しにしていたからだ。
それでは、保護者もこっちを信用してくれない。


「彼はADHDの毛がありますからね。どうしてもトラブルは起こしますよ。だから、今回の件も、しょうがないですよ。ただ、問題は、家に帰るまでにきちんとした指導ができていればよかったんです」
次回 → 第271話 保護者対応の極意とは