第277話 事前指導と哲学 | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第277話 事前指導と哲学

『なるほど。指導について深く考えたことがなかったわ。指導せにゃいけんって追い込まれた時に、仕方なく指導していたかも』
荻原は自嘲的に言った。

「要は、事前と事後の重要性ですね。まず、事前のことですが。」



「さっき教育の哲学の話をしましたけど、一貫した考え方があるかが大事です。
サッカーのルールはわかりやすくていいですよね。
人によっては、面倒だから、忙しいから、今日は気が乗らないからと言って、サッカーでハンドの反則を取らない人がいます。

これでは、選手が安心してプレーできませんよね。だから、まずは、一貫して哲学を持つことが必要です。
いつの時でも、変わらずに基準を持ち続けることがいります。」

『それってさ、気分で変わったらまずいんだよね。う~~ん。
思い返すと、気分で指導していたかも。
どうしたら一貫した指導ができるようになるんかね』

そう、ここが実は一番の問題なのだ。問題を抱える多くの教員が、自分の指導に一貫性がなく、気分で行っていることに気がついていない。




「一番簡単なのは、自分が許せるかどうかじゃないですかね。
例えば、嫌がらせをされるのは嫌です。だから、している生徒を見ると絶対に許せない気分になるんですよ。
いじめにしても、物隠しにしても、悪口にしても。

だから、指導したくなって、指導するんです。それが妙にはまるというか、いい形で学級で機能しているんです。
ある意味、ぼくの価値観を押し付けているようなもので、これがぼくの哲学の正体です。

先生は、誰かが嫌がらせをされているのを見たら、どう思うんですか?」

島田は本音として聞いてみたかった。

島田の感覚では、生徒が嫌がらせをされているのに、それを放置する教員の感覚が理解できなかったのだ。
であるから、正直のところ、去年の荻原や佐々木のクラスの生徒が可哀想で仕方がなかった。
人によっては「あの教師は力がない」と馬鹿にするわけだが、それはメンツを気にするプライドの高い教員の残念な考えである。


『・・・。正直なところ、去年は何度もそういう場面を見た。その度に、『うわ、めんどくさ。指導せんといけんじゃん』って思ってた。だから、見てないことにして、気づかないことにして、放っておいた。
生徒のことよりも、自分のことばかり考えていた。本当にダメ教師だわ』


島田も心の中で同意した。まあ、荻原本人は心の底ではそうは思っていないだろうが。
「でも、先生、これから変えればいいじゃないですか。最初からうまくいかないですよ」
これは本音だった。

教師は採用されたら、もう教師だ。
1年目でも、10年目でも生徒から見れば、同じ教師である。

1年目の教師に何もかもを求めることが無理なのだ。
担任をさせずに力をつけさせるなどすれば違うが、1年目から担任もさせるのだから、仕方がない。
だからこそ、失敗しながらやっていくしかない。若いうちは、試行錯誤の連続だ。

次回 → 第278話 荻原の思うところ