第47話 遅刻の判定 | t-labo(中学校教師の支援サイト)

第47話 遅刻の判定

8時30分の朝のチャイムで遅刻が決まる。
朝読書開始の時間である。

大抵の学校は、チャイムが鳴った瞬間に遅刻をつけるのだが、神無月中学校はあいまいであった。
そのため、チャイムが鳴り終わるまでに座れば遅刻という悪習が続いていた。

おまけに、授業の開始も同様であり、チャイムは30秒間鳴る。
必然的に授業の開始がだらだらしたものになり、終わりのチャイムが鳴れば、その瞬間に気が緩む。

環境が人をつくるとはよくいったもので、こうした部分が生徒の緩みを生んでいる。



担任は朝のチャイムの前には教室に上がるのが約束である。
が、佐々木と己斐はなんだかんだと遅く上がることが多く、チャイム後に上がってみると、ろう下で生徒が遊んでいることがほとんどである。

この日はチャイム前に上がった。
ろう下で遊び呆ける生徒。
チャイムが鳴り終わっても入らない。

佐々木はいつもの生徒たちに遅刻をつけた。
「おい、お前ら遅刻で。はよ、入れ」
1組の生徒もそろそろと入っていく。

生徒たちは、朝は遅刻のこともあり、さすがに教室には入る。

『なんで遅刻なんや』と神田が言ってくる。
「チャイムが鳴り終わっても、座ってないじゃないか」

こればっかりは言い訳できない。
朝SHR後、一度ろう下に出た神田達が戻ってくる


『おい、1組の奴らは遅刻になってないで! 消せや』
「それはおかしいだろう。己斐先生に確認してみる」

佐々木は踏ん張り、抗議ですぐに消さなかった。
というのも、遅刻をつけるのはささやかな復讐だからだ。
記録に残る、保護者の目にもふれる。

『1組は朝読書さえきちんとすれば遅刻はつけないって約束になっとんで。おれもちゃんとやっただろうが』
「はあ、なにそれ!?」



『そんなことは絶対ありません。今日の遅刻ですか? わかりました。遅刻にしておきますから!』
と己斐はムキになった。
そもそも、今日遅刻をつけてないのか・・・。

教務の出席簿点検では、1組はそういえば遅刻は全員0だった。
自分が見る限り、遅刻はあったはずだ。

2時間目のあと、平川が職員室で話しかけてきた。
『今朝の1年生達は遅刻だよね?』
1年と2年は同じ会で、2年担任の平川には見られている。

「はい、遅刻ですよ。でも、不思議なんですよねー。1組は遅刻つけてないんですよ。何度かあったのに、今までも遅刻0なんですよ」
『え、なにそれ? ありえなーい! 土井ちゃんに言っておくわ』

このようなやりとりもあり、佐々木にしては珍しく、しつこく動いた。
配膳中に1組に行き、己斐に
「遅刻つけましたか?」と確認した。
『はい、今つけます!!』と相変わらずムキになって言い、出席簿に遅刻をつけた。


よし、これで自分のところもきちんとつけられる。
にしても、1組の配膳自体もマスク、エプロン、三角巾つけている生徒なんて0だった。
(同じじゃないか。なのに、おればっかり言われるのはなんでや)

神田たちには「1組のやつらも遅刻がついてる」と言った。
これでひとまずおさまるはずだ。

やれやれの給食だったが、降りるとき1組では菊野、荒川達が己斐を囲みなにやら熱心に話しかけていた。
あれは普段なら自分の立場だったが、他人がそうやって抗議されているのは気持ちよかった。


そして職員室に降りると、己斐に話しかけられた。
『先生、あの子達が訴えてきたんですが、事情があったみたいです。だから、遅刻は消しました』
「え、、、先生、だっていっつものことじゃないですか。事情といっても・・・」
さすがにおかしい。

『この子たちはもう来ているんですよ。なのに、遅刻っておかしいじゃないですか。事情もあったわけで』
その事情というのも、ろう下で落し物を探していたそうだが、そうは到底見えなかった。

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納得できなかった。
己斐からはいつも「ちゃんとやってください」と言われていたからだ。
どうしても、納得がいかなかったので、気が引けたが土井にそのことを話した。

『前からね、あるのよね。自分のクラスだけっていうのが。でも、それは遅刻ですから、私から言っておきます。』

放課後。

土井と己斐とのやりとりをしている。己斐の声が聞こえてくる。
『えっ、そうなんですか。チャイムが鳴り終わったら、何があっても座っておかないといけなかったんですか。事情があったらいいとばっかり思ってました』

ちなみに、己斐と平岡がこの学校では一番の古株だ。知らないわけがない
「普通の学校はチャイムが鳴った時に遅刻なんですけど、この学校はおかしいんですよ。」

己斐は、自分は悪くない的な感じに振舞っていて辟易した。
自分に対していつもこういう気持ちなのかもと思った。



※ 指導のポイント

(1)ルールの厳守

ルールを自分の解釈で曲げてしまうほど、生徒を混乱させ、信用を失う行為はない。
自分が指導するのが面倒だからという理由で逃げてはいけない。

ルール通りに運用し、ルール通りに遅刻をつけるべきである。
生徒の抗議でその判断がいちいち変わってはいけない

次回 → 第48話 1組の騒動